聞こえのゴールはどこ?|「聞こえる」と「わかる」の違いをわかりやすく整理

今日は難聴児の「聞こえのゴール」について一緒に考えていこう!
子どもの「聞こえる」と「わかる」は、同じようでいてまったく別の力です。
補聴器で音が届いていても、その音を意味として理解する力はゆっくり育っていきます。
音が届く環境づくり、経験の積み重ね、語彙の増え方、相手の話し方、雑音の量…
そのすべてが子どもの「わかる力」を育て、日常の安心へつながっていきます。
補聴器をつけていても聞き返しが増える日や、雑音に負けてしまう場面があっても、それは成長の途中で自然に起こること。
焦らず、その子のペースで育っていく過程を大切にしていきたい――。
この記事では、「聞こえる力」と「わかる力」の違い、そして“聞こえのゴール”をどう考えればいいのかを、できるだけわかりやすく整理します。
- 聞こえる力と、わかる力はまったく別の力
- 難聴児は“ながら聞き”や雑音下で理解が難しくなりやすい
- 環境づくりと経験の積み重ねで、理解はゆっくり確実に育つ
- 聞こえのゴールは「全部聞こえること」ではなく、“安心してわかる世界が広がること」
「聞こえる」と「わかる」
きこえには、この2つが関わっています。
- 音として入る力(聴覚)
- 意味として理解する力(言語理解)
補聴器で聞こえる音の量が増えても、それがすぐに“意味としてわかる”ようになるとは限りません。
たとえば——
- 音は聞こえているのに返事が遅れる
- 早口だと理解が追いつかない
- 雑音のある場所では“聞こえているのにわからない”
- 言葉の意味の結びつきに時間がかかる
こうしたことは、難聴児でも健聴児でも、その子の発達段階によって自然に起こります。
聞こえる量は補聴器が補える。
でも“理解する力”は、経験・語彙・環境でゆっくり育つ。
この2つの違いを知っておくと、子どもが「聞こえていないわけじゃないのに、なんだか分かっていない気がする」という場面を理解しやすくなります。
難聴児「ながら聞き」が難しいのはなぜ?
健聴児は、まわりのたくさんの音を「ながら聞き」しながら状況をつかむことができます。
遊んでいても、誰かの呼び声、食器の音、外を走る車の音などを同時にとらえて、音の強弱を頭の中で整理し、重要な音だけを選び取って理解しています。
一方で難聴児は、
- そもそも聞こえていない音が多い
- 補聴器や人工内耳を通して入る“加工された音”になる
- そのため音の強弱(遠い・近い、必要な音・不要な音)を脳内でうまく調整しにくい
こうした理由から、同時に複数の音を処理する「ながら聞き」がとても難しいと言われています。
その結果、
- 話しかけられてもすぐに反応できない
- 雑音の中では理解に時間がかかる
- 必要な音だけを選んで聞くのが難しい
といった場面が生まれます。
でもこれは「能力が低い」わけではなく、“入ってくる情報の質が違う”ために、理解に少し時間が必要なだけです。
「聞こえる=わかる」ではない
「音が聞こえている」ことと、「その音の意味がわかる」ことは、まったく別の力です。
補聴器や人工内耳は、たしかに音を届けてくれます。
でもその音は、
- 機械を通した“加工された音”
- 聞こえにくい周波数は強調される
- 騒がしい環境ではノイズも一緒に入る
といった特徴があります。
そのため、難聴児が聞いている世界は、“音としては届いているけれど、意味を理解するには時間がかかる”という状態になりやすいのです。
たとえば、
- 誰かが話している声
- 遠くの生活音
- 近くで落ちた物音
が同時に存在した時、健聴児はそれらを一瞬で分類し、「重要な音」と「重要でない音」にわけて理解できます。
一方で、難聴児は「すべての音を同じ大きさの“情報”として受け取ってしまう」という状態になりやすいため、脳の中で音の優先順位を整理するのに時間が必要になります。
また、雑音の中では理解に時間がかかることもあります。
運動会のように、音が四方から飛び交う場面では特にその傾向が強くなります。
難聴児の運動会については、こちらの記事で体験談を紹介しています。
難聴児と健聴児の「聞く力」「分かる力」の差は“能力の差”ではありません。
特に、同じ単語でも声の高さや話し方が変わると一致しない、場面と音を結びつけるまでに時間が必要、といった“認知のステップ”が健聴児よりゆっくりになることがあります。
使っている感覚器に違いがあるからこそ、「理解するまでのステップが違う」というだけのこと。
だからこそ周囲の大人が、
- ゆっくり話す
- 短い文で伝える
- 視覚情報(指差し・ジェスチャー)を添える
といった工夫をするだけで、子どもの理解がとてもスムーズになります。
大人がこれを知っておくだけで、子どもが「なんでわかってくれないの?」と責められる場面はぐっと減り、安心して理解できる環境をつくることができます。
まとめ
聞こえる力と、わかる力は、同じようでいてまったく別の力です。
健聴児のように「ながら聞き」で状況をつかむのが難しい難聴児にとって、音を理解するには時間が必要で、集中力も多く使います。
それは「能力の問題」ではなく、そもそも入ってくる音が違うから。
加工された音を頼りに、必要な音だけを選び、意味づけしながら一生懸命まわりの世界を学んでいるのです。
子どもが安心できる環境では、聞き取りの力はぐっと伸びます。
例えば、発表会の場面でも、先生や周囲が配慮してくれるだけで理解のスピードが大きく変わることがあります。
難聴児の発表会のポイントについては、こちらの記事で紹介しています。
難聴児の発表会で起こりやすい“聞こえの困りごと”と対策まとめ
だからこそ大人ができることは、「急かさない」「雑音を少し減らす」「伝えたいことはていねいに」といった“小さな工夫”を積み重ねること。
そして、“安心してわかる世界が広がっていくことこそが、聞こえのゴール”。
子どもたちのペースでゆっくりと、聞こえの世界が広がっていく時間をいっしょに味わっていけたら、それが何よりの成長につながります。
聞こえのゴールを目指して、わたしも難聴児の子育てをみなさんと一緒に頑張るよ!





