コミュニケーション

スピーチバナナってなに?“聞こえの範囲”を見える化した図

スピーチバナナって何のこと?

 私が「スピーチバナナ」という言葉を初めて聞いたのは、ろう学校の乳幼児相談でした。

 難聴とは無縁だった私に、ろう学校の先生は優しく、難聴について学ぶ機会を設けてくださいました。

 そのとき初めて見せてもらったのが、スピーチバナナという次のような図。

 見た目がバナナのような形をしているこの図は、実は、日常生活で使う言葉の“聞こえやすさ”を見える化した大切なツールです。

 「このバナナの中に入っている音が聞こえれば、会話が理解できるんですよ」

 と説明を受け、“聞こえる・聞こえない”という世界を、目で見て理解できることに驚いたのを覚えています。

  • スピーチバナナは「日常会話の音がどの高さ・大きさで聞こえるか」を示した図
  • 聴力検査(オージオグラム)と重ねることで、聞こえる音・届きにくい音がわかる
  • “聞こえ方”を理解することで、補聴器の調整や支援方法がぐっと具体的になる

 今回は、そんなスピーチバナナの意味と見方をやさしく解説します。

スピーチバナナとは?

 スピーチバナナとは、日常会話で使われる音の高さと大きさを示した図です。

 聴力検査(オージオグラム)のグラフ上に、バナナのような形を描いて表されます。

 その中には「あ」「い」「う」などの母音や、「し」「す」「け」などの子音といった、人が会話でよく使う音が分布しています。

 この“バナナの中”に音が届いていれば、おおむね日常会話を聞き取ることができると言われています。

スピーチバナナの例(次女そらの聴力図)

 上の図は、次女そらの聴力検査の結果とスピーチバナナを重ねたものです。

 黄色のバナナの形は、日常会話の音が分布する範囲。

 赤と青の印は、それぞれの耳で聞こえている音の大きさを示しています。

 赤は補聴器を着けているときの聴力で、青が裸耳(補聴器を外したとき)の聴力です。

 聴力の目安については、こちらの記事で詳しく解説しています。

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 図の中のアルファベットは、その音を発音がどの周波数にあるかを表しています。

 そのため、この図を見ると、どの音がその子の耳に届きやすく、どの音が聞こえにくいのかがひと目でわかります。

縦軸と横軸の見方

 スピーチバナナは、聴力図(オージオグラム)の上に重ねて使われます。

  • 横軸(Hz):音の高さ。左ほど低音(太鼓など)、右ほど高音(鳥の声など)
  • 縦軸(dB):音の大きさ。上ほど小さな音、下ほど大きな音

 数字が大きくなるほど、聞こえにくい音になります。

 つまり、上の方に線があるほどよく聞こえていて、下にいくほど「より大きな音でないと聞こえない」状態です。

スピーチバナナでわかる“聞こえ方”

 聴力検査の結果をスピーチバナナと重ねると、

 どの音が聞こえていて、どの音が届いていないかがひと目でわかります。

 たとえば、

  • 高音が聞こえにくい場合 → 「し」「す」「つ」などが抜けて聞こえる。
  • 低音が聞こえにくい場合 → 「ま」「な」「あ」などが不明瞭になる。

 「聞こえているのに、言葉がはっきりしない」と感じるとき、実はこうした音の“聞き取りの抜け”が関係していることもあります。

 たとえば、そらの場合は高音(4000ヘルツ)の裸耳聴力(青い▲)が50dBであり、図では「F」「S」「TH」などの音よりかなり下にあるため、ひらがなで言うと「ふ」「さ行」などの高い子音が聞こえにくい傾向があります。

 逆に、低音(250~500ヘルツ)の裸耳聴力(青い▲)は50dBであり、図では「E」「U」「L」などの音よりも上にあるため、ひらがなで言うと「え」「う」「ら」などの低い母音・子音は補聴器を着けていなくても聞こえているということになります。

補聴器でどう変わる?

 補聴器をつけることで、聴力曲線がスピーチバナナの中に近づき、聞こえる音の範囲が広がります。

 ただし、補聴器をつけてもすべての音が完璧に届くわけではありません。

 聞こえる音が増えることで会話がしやすくなる一方で、周囲の雑音も入ってきやすくなるなど、調整には時間がかかります。

 大切なのは、「聞こえるようになった=理解できるようになった」ではないということ。

 音を言葉として理解するには、聞こえの経験を重ねることが必要です。

 補聴器の選び方や各メーカーの特徴などについては、こちらの記事でも解説しています。

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スピーチバナナを知る意味

 スピーチバナナを知ることで、「どの音が届いているのか」「どの音が届きにくいのか」が明確になります。

 家庭や学校でのサポートの仕方も、より具体的に考えられるようになります。

 たとえば、

  • 高音が聞こえにくい子には、口元を見せて話す。
  • 騒がしい場所では、紙に書く・指差すなど視覚的な補助を使う。

 スピーチバナナは、“聞こえ方を理解するための地図”のような存在です。

 見た目はシンプルでも、その一枚の図から、子どもの世界の感じ方が見えてきます。

まとめ

 スピーチバナナは、聞こえの世界を“見える化”する図。

 聴力検査の結果と合わせて見ることで、どの音が届いていて、どの音が届きにくいのかを把握できます。

 聞こえ方を知ることは、補聴器の調整や支援方法を考える第一歩。

 「どんなふうに聞こえているのか」を理解することが、子どもたちの成長を支える大きな力になります。

サ行などの難聴児が苦手な音は、文字や手話を併用していくといいよ!