今日は、難聴の子どもが社会人になったら?の話だよー!

 身体障害者手帳を取得すると、

「一般枠ではもう応募できないのかな?」

「障害者枠でしか就職できないの?」

そんな不安の声をよく耳にします。

 わたし自身も、難聴に関する記事を書いていく中で、“手帳を持つこと=働き方が制限される”そんなイメージを抱いている方が少なくないと感じています。

 結論から言うと、身体障害者手帳を持っていても、一般枠にも障害者枠にも応募できます。

 どちらか一方に限定されることはありません。

 ただし、選ぶ枠によって受けられる配慮や仕事内容、働きやすさが大きく変わることがあります。

 この記事では、一般企業への就労の際の一般枠と障害者枠の違いや難聴(聴覚障害)のある人が枠を選ぶときのポイント、就労にまつわるよくある誤解をわかりやすく整理していきます。

  • 身体障害者手帳があっても、一般枠にも障害者枠にも応募できる(制限はない)
  • 障害者枠は配慮が前提、一般枠は相談ベースと、働き方の前提が大きく異なる
  • 難聴の場合、枠そのものより“働く環境との相性”が働きやすさを左右する

身体障害者手帳があっても一般枠に応募できる理由

 身体障害者手帳を持っていても、一般枠への応募は法律上まったく問題ありません

 「手帳を取得した瞬間から障害者枠に限定される」というルールは存在しません。

 障害者雇用に関する仕組みは、あくまで企業側の「障害者雇用率(法定雇用率)」を達成するためのもので、働き方を“本人が選べる”ことが前提になっています。

 企業が障害者枠として求人を出す場合は、応募条件として「手帳所持」が求められますが、それはあくまで“障害者枠の求人だけ”の話。

 手帳を持つ本人が、一般枠に応募できなくなるわけではありません。

 また、一般枠で採用された場合でも、必要な配慮(聞こえ方に関する環境調整など)は企業に求めることができます。

 障害者雇用促進法により、企業には“合理的配慮”を行う義務があるため、

  • 会議での聞き取り支援
  • 席の配置
  • 筆談やチャットツールの併用

など、難聴に関わるサポートを相談することは可能です。

 つまり、「手帳を持つ=働き方が縛られる」ではなく、「自分に合った枠を選べる」ことが大前提なのです。

 身体障害者手帳の仕組みや、取得によって受けられる支援については、こちらの記事で詳しくまとめています。

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就労の際の一般枠と障害者枠の違い

 一般枠と障害者枠は、「応募できる・できない」というよりも、働き方の前提が違う と考えるとわかりやすいです。

 どちらが良い・悪いではなく、自分の得意や体調、働きやすさに合うかどうか が選ぶポイントになります。

一般枠の特徴

 一般枠は、通常の採用と全く同じ扱いになります。

  • 求められるスキル・成果の基準は健聴者と同じ
  • 仕事内容の幅が広く、変化も多い
  • 配慮は個別相談ベースで進む
  • 昇進・異動などの制度は健常者と同様

 一般枠のメリットは、仕事内容の選択肢が広いこと。

 一方で、電話応対会議中心の職場など、難聴と相性が悪い環境だと負担が大きくなることもあります。

障害者枠の特徴

 障害者枠は、採用の段階で「障害特性に配慮する」ことを前提として進みます。

  • 業務内容が比較的安定している
  • ジョブカット(業務の切り分け)が明確
  • 合理的配慮が前提なので相談しやすい
  • 体調や聞こえの特性に合わせて働き方を調整できる

企業によっては、

  • 正社員登用
  • 専門職としての採用

なども増えており、「パートだけ」という時代ではなくなっています。

違いを一言でまとめるなら

 一般枠: 仕事の幅が広く自由度が高いが、配慮は基本“交渉ベース”

 障害者枠: 安定した働き方がしやすく、配慮が“前提”として整えられている

 どちらを選ぶかは、「どんな働き方なら無理なく、長く続けられるか」が判断の軸になります。

難聴(聴覚障害)特有の働きやすさのポイント

 難聴がある場合、就労でいちばん影響が出やすいのは「音声によるコミュニケーション」「騒音環境」です。

 同じ“仕事”でも、聞こえ方との相性 によって働きやすさが大きく変わるため、ここを押さえておくことが大切です。

職場の静かさ・騒音レベル

 補聴器や人工内耳があっても、

  • 空調音
  • 機械音
  • 複数人の会話

などの「ざわざわした環境」は聞き取りを難しくします。

 反対に、静かな部屋・会議室中心の仕事内容なら負担が軽くなるため、環境との相性はとても重要です。

会議スタイル

 難聴の働きやすさに直結するのが会議の形式。

  • オンライン会議中心(イヤホン併用)
  • 対面会議中心
  • 複数人が同時に話す会議文化

これらによって聞き取りの難しさが変わります。

 企業によっては、

  • 座る位置の調整
  • 議事録の共有
  • ロジャーなどの補聴援助システムの使用

といった配慮が可能な場合もあります。

 ロジャーについては、こちらの記事で解説しています。

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電話応対の有無

 難聴ともっとも相性が悪い業務が「電話応対」です

 電話の音質は補聴器・CIでも理解しにくく、日常に比べて聞き取り負荷が高くなりがちです。

  • 電話が必須の業務か
  • メールやチャットで代替できるか
  • 代表電話を取る必要があるか

 ここは応募前に確認しておきたいポイントです。

情報共有の方法

 難聴のある人にとって、視覚情報が多い職場は働きやすい傾向があります。

  • チャットツールの利用
  • 書面での指示
  • マニュアルの整備
  • ホワイトボードの使用

 こうした視覚的サポートがあるだけで、理解の精度が大きく上がります。

 視覚情報が理解の助けになる背景については、こちらの記事にもまとめています。

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人間関係と「配慮を言いやすい雰囲気」

 どんなに制度が整っていても、

「ちょっと聞き取りにくくて…」

「席を変えてもらえますか?」

と言い出しにくい職場では安心して働けません。

 難聴の場合、物理的環境と同じくらい“話しやすさ”が働きやすさに直結します。

よくある誤解と正しい知識

 身体障害者手帳や障害者枠での就労については、実際と異なるイメージが広がりやすく、不安を大きくしてしまうことがあります。

 ここでは、特に多い誤解をピックアップし、正しい情報とあわせて整理します。

誤解①:手帳を持つと一般枠では働けない

働けます。手帳所持は、一般枠の応募を制限するものではありません。一般枠・障害者枠、どちらを選ぶかは本人の意思で決められます。

誤解②:障害者枠はパートや契約社員だけ

正社員の障害者枠採用も増えています。企業によっては、専門職・総合職としての採用もあり、「短時間勤務=障害者枠」という固定的な構造ではありません。

誤解③:障害者枠は給与が低い

企業・業務内容によって幅が大きいのが実情。ジョブカット(業務の切り出し)が明確になる分、一般枠より給与が抑えられるケースもあれば、専門性を活かして一般枠と同等の待遇になる企業もあります。

誤解④:障害者枠でしか配慮を受けられない

一般枠でも合理的配慮を求めることができます。障害者雇用促進法により、企業には「合理的配慮の提供義務」があります。会議の資料共有や座席位置の配慮、筆談やチャットの併用など、特性に応じたサポートを相談することは可能です。

誤解⑤:難聴なら障害者枠のほうが働きやすい

人によります。環境調整がしやすい職場であれば一般枠でも問題なく働けますし、逆に騒音が多い職場・電話応対中心の業務なら、障害者枠のほうが「無理なく続けられる」というケースもあります。

どちらの枠を選ぶ?判断ポイント

 一般枠と障害者枠には、それぞれに強みがあります。

 大切なのは「どちらが“長く安心して働けるか”」という視点で選ぶことです。

 難聴のある人の場合、仕事内容そのものより、働く“環境”との相性 が大きく影響します。

 ここでは、枠を選ぶときの判断ポイントをわかりやすく整理します。

① 電話応対の頻度

 難聴の働きやすさを左右する最大ポイントです。

  • 電話がほぼ必須
  • 代表電話を取る文化がある
  • コールセンター系業務

 などは、一般枠だと負担が大きくなることがあります。

反対に、

  • 電話を使わない職種
  • メール・チャット中心

の企業や部署なら、一般枠でも無理なく働くことができます。

② 職場の騒音・会議の多さ

 音が多く飛び交う環境は、聞き取り負荷が大きくなります。

  • オープンフロアで常にざわざわ
  • 複数人での同時会話が多い
  • 会議が頻繁

という環境は注意が必要です。

 静かな職場・会議運営が整っている企業なら、一般枠でも快適に働けることが多いです。

③ 配慮を相談しやすい雰囲気があるか

 難聴の場合、

「聞き返しても大丈夫」

「席を少し変えてほしい」

「議事録を先に見せてほしい」

といった小さな配慮が働きやすさを劇的に変えます。

 障害者枠は最初から配慮が前提なので安心しやすいですが、一般枠でも、相談しやすい文化がある企業なら十分働けます

④ 業務内容が明確かどうか

一般枠は、業務が広く変動しやすい特徴があります。

それがメリットにもなり、負担にもなります。

障害者枠は、

  • 担当業務が切り分けられている
  • 想定外の業務が少ない

という安定感が大きな魅力です。

⑤ 自分の強みを活かしやすいか

 難聴のある人は、

  • 視覚的な情報処理
  • 文章・資料作成
  • 集中して取り組む作業

などが得意なことも多いです。

 強みを生かせる職場なら一般枠でも活躍できますし、専門スキルを活かした障害者枠採用も増えています。

選ぶ基準は「働きやすさ×安心感」

 どちらの枠を選んでも間違いではありません。

 重要なのは、

  • 無理なく働けるか
  • 配慮を得られるか
  • 環境と相性が良いか

という3つ。

 枠そのものよりも「この企業で、自分が安心して力を発揮できるか」

 ここを基準に選ぶことが、長く続けられる働き方につながります。

まとめ

 身体障害者手帳を持っていても、一般枠・障害者枠のどちらにも応募できます。

 働き方が手帳によって制限されるわけではありません。

大切なのは、

  • 自分の聞こえ方に合う環境か
  • 配慮を受けやすい雰囲気があるか
  • 無理なく続けられる仕事内容か

という視点で枠を選ぶことです。

 一般枠は、仕事内容の幅が広くキャリアを広げやすい一方、配慮が個別相談になるため、環境によっては負担が大きくなることもあります。

 障害者枠は、配慮を前提に働ける安心感があり、業務が安定していることから、聞こえ方との相性を重視したい人に向いています。

 どちらを選んでも間違いではありません。

 “安心して働ける場所で、自分の力を発揮できること” が、長く続く働き方につながります。

難聴があっても、子どもの未来は無限大だよ!