「合理的配慮」という言葉を聞いたことがありますか?

 「合理的配慮」という言葉は、学校や職場、公共の場などで使われる場面が増えていますが、なんとなく知っているようで「具体的にはどういうこと?」と感じる人も多い言葉です。

 なんだか難しそう、お願いしにくそう…と感じる人も多いかもしれません。

 でも実は、合理的配慮は誰かを特別にするためのものではなく、安心して参加できる環境を整えるための考え方です。

 この記事では、合理的配慮の基本を、法律の根拠を交えながら、できるだけわかりやすくまとめました。

「これって合理的配慮になるの?」と迷ったときに、安心して立ち返れる記事になればうれしいです。

  • 合理的配慮は、特別扱いではなく、法律で認められた当たり前の仕組み
  • 手帳の有無や障害の重さに関係なく、「困りごと」があれば対象
  • 学校・職場・保育園など、生活のいろいろな場面で活用できる

合理的配慮とは?

 合理的配慮とは、障害のある人が“ほかの人と同じように参加できるようにするための工夫”のことです。

 情報の伝え方を変える、環境を調整する、必要な支援を加えるなど、その人が感じている困りごとを減らし、生活や学習、仕事に参加しやすくするための調整を指します。

 ここで大切なのは、合理的配慮は“特別扱い”ではなく、障害を理由に不利な状況が生まれないようにするための法的に認められた権利だという点です。

 この考え方は、障害者差別解消法で明確に示されています。

障害者差別解消法 第7条(合理的配慮)

(合理的配慮)

第七条 行政機関等は、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、その必要としている社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

2 事業者は、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、その必要としている社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

(※2024年の改正により、民間事業者も「努力義務」から「義務」へ移行)

条文が示しているポイント

 この条文が意味するのは、次の3点です。

  1. 本人が「困っている」「こうしてほしい」と意思表示をすれば、行政機関や企業には対応する義務があること。→ 合理的配慮は“お願い”ではなく“認められた権利”。
  2. 配慮の内容は、本人の状況に応じて個別に決まること。→ 同じ障害名でも、必要な配慮は人によって違う。
  3. ただし、費用面や体制面で“過重な負担”になる場合は例外となること。→ 無制限に何でもできるわけではなく、双方の話し合いで決める。

 このように、合理的配慮は法律に根拠のある考え方であり、障害のある人が社会に参加するための「土台」を整える仕組みです。

 まずは“法律がこう定めている”という前提を押さえておくことが、この記事の大事なスタートになります。

誰が対象になるの?

 合理的配慮の対象は、「障害者手帳を持っている人だけ」と思われがちですが、実際はそうではありません。

 手帳の有無にかかわらず、生活・学習・仕事の中で困難が生じている人が対象になります。

 障害者差別解消法では、「障害がある人」を社会的な障壁との相互作用によって、日常生活に制限が生じる状態にある人と広く定義しています(法第2条)。

 そのため、医学的な“重さ”ではなく、その人がどんな場面で困っているか が基準になります。

 この考え方は、難聴にもそのまま当てはまります。

 軽度・中等度・高度・重度という聴力レベルに関係なく、授業が聞き取りづらい、会議の情報が取りこぼされる、アナウンスが聞き取れないなど、日常の中で不利益が生じているなら、合理的配慮の対象になります

 また、合理的配慮が求められる場所は限定されていません。

 職場・学校・幼稚園・保育園など、生活のあらゆる場面で必要に応じて検討される仕組みです。

 職場では2024年4月から民間企業にも義務化され、学校や幼稚園はもともと法の対象として義務が課されています。

 保育園も児童福祉法の通知により合理的配慮が求められており、幼い子ほど環境調整が重要と考えられています。

 このように、合理的配慮の「対象」は非常に広く設定されています。

 ポイントは 「手帳の有無」ではなく、「困りごとがあるかどうか」

 その人が安心して参加できる環境を整えるために、個別に話し合って決めていくことが大切です。

 合理的配慮は「困りごと」が基準になります。

 とくに難聴の場合、補聴器をしていても環境や距離によって聞き取りが難しくなることがあります。

 その仕組みについてはこちらの記事で詳しくまとめています。

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どんな場面で行われるの?

 合理的配慮は、特定の場面だけで提供されるものではありません。

 学校、職場、幼稚園・保育園、公共機関、日常生活のさまざまな場面で必要に応じて検討される仕組みです。

 ここでは、読者がイメージしやすいように、主な場面ごとに基本的な例を紹介します。

学校(小・中・高・大学など)

 学校では、合理的配慮は法的義務として位置づけられています。

 難聴や発達障害、身体障害など、個々の状況に応じて環境を整えることが求められます。

例:

  • 前方席への配慮、話者の顔が見える配置
  • 板書やプリントの文字情報の補足
  • FM装置・ロジャーなどの補聴支援機器の利用
  • 休憩時間の調整や支援員の配置など

 教室での聞き取りを支えるために、FM装置やロジャーなどの補聴援助システムを使うことも合理的配慮の一つです。

 ロジャーの仕組みについては、また別の記事で解説予定です。

幼稚園・保育園

 幼い子どもほど「環境から受ける影響」が大きいため、幼稚園・保育園でも合理的配慮が重視されます。

例:

  • 先生が近くで話す、視覚的な合図を増やす
  • 騒音の大きい活動では安全に配慮した聞き取り補助
  • 行事や避難訓練のときの事前説明
  • 子ども同士のやり取りをサポートする環境づくり

職場(企業・団体など)

 2024年4月から、民間企業にも合理的配慮の提供が義務化されました。

 働く人が困りごとを伝えた場合、企業は過重な負担にならない範囲で調整を行う必要があります。

例:

  • 会議の文字情報(議事録、要約筆記、チャット併用)
  • 座席の配置や音環境の調整
  • 電話業務の分担変更
  • 緊急時の通知を光・振動で補完する仕組み

公共機関・日常生活

 通院・買い物・行政手続きなどの日常の場面でも、合理的配慮は適用されます。

例:

  • 窓口での筆談やタブレット入力
  • 視覚的な案内、ゆっくりした説明
  • バス・電車の運行情報を文字で提示
  • 避難情報の多様な伝達手段

 合理的配慮は、「特別な場面」で使うものではなく、“その人が日常生活に参加するすべての場面”で、必要に応じて調整される考え方です。

 場所が変われば困りごとも変わるため、状況に応じて柔軟に検討していくことが大切です。

合理的配慮と「過重な負担」

 合理的配慮は「本人の困りごとに応じて必要な調整を行う」という仕組みですが、“すべての要望に必ず応えなければならない” という意味ではありません。

 法律では、合理的配慮には 「過重な負担(かじょうなふたん)」 という考え方が定められており、これが“できる・できない”を判断する基準になります。

「過重な負担」とは?

 過重な負担とは、事業者や学校が対応することで、著しく大きな負担が生じてしまう場合のことを指します。

 負担の大きさは、次のような要素から総合的に判断されます。

  • 組織の規模、財政状況
  • 人員体制、専門スタッフの有無
  • 一時的・継続的にどれくらいの負担がかかるか
  • 他の利用者や業務全体への影響
  • 代替案の有無

 例えば、巨大な設備変更が必要で莫大な費用がかかる場合や、小規模園で職員配置がどうしても確保できない場合などは、「過重な負担」と判断されることがあります。

過重な負担=配慮しなくていい、ではない

重要なのは、過重な負担だからといって “何もしなくて良い” わけではない という点です。

法律では、できない場合でも

  • なぜ難しいのかを説明する
  • 実現可能な代替案を一緒に検討する
  • 部分的な調整で対応する といった “対話による解決” を求めています。

つまり合理的配慮は、本人の困りごとと、学校・職場の体制の両方を踏まえて、最も実現性の高い方法を探すプロセス と言えます。

どうやって線引きされるの?

 合理的配慮は、“やるか・やらないか” の二択ではありません。

 現場では次のような流れで判断されることが多いです。

  1. 本人が「困りごと」を伝える
  2. 学校・職場が具体的な状況を聞き取る
  3. 実施可能な方法を複数検討する
  4. 過重な負担がないかを確認する
  5. 双方が納得できる形で決定する

 大切なのは、一方的に拒否するのではなく、話し合いながら調整すること。

 これが合理的配慮の大前提です。

 合理的配慮は“無限に応える義務”ではなく、“可能な範囲で最大限の調整を行う義務”

 できる方法を探すことこそが、合理的配慮の本質です。

まとめ

 合理的配慮は、誰かを特別にするための制度ではありません。

 その人が「できない」ことで立ち止まらなくていいように、環境を少し調整するための仕組みです。

 手帳の有無や障害の重さに関係なく、「ちょっと困っている」「ここが大変」と感じる場面があれば、合理的配慮を考えるスタートラインに立っています。

 学校でも、職場でも、保育園でも。

 大切なのは、「我慢すること」ではなく、どうしたら安心して参加できるかを一緒に考えること

 合理的配慮は、誰か一人のためだけでなく、結果としてまわりの人にとってもやさしい環境をつくってくれます。

「伝えていい」「相談していい」――
そう思えることが、最初の一歩です。

長女とうこは小学校で前から2列目に席を固定してもらっているよ!

これも合理的配慮だね!