難聴児はなぜ避難訓練が苦手?怖い非常ベルの音に慣れるための3ステップ

おたよりに書いてあったけど、今週は避難訓練ね。
今年もうちの子、大丈夫かしら…
園や学校の避難訓練が近づくと、「非常ベルでまた泣いてしまうのでは」と不安になっていませんか?
実は、難聴児にとって非常ベルは、健聴の子どもや大人が感じる何倍もの強い刺激として届きます。なぜなら、非常ベルは補聴器が最も増幅しやすい高音域(2,000〜4,000Hz)で90dB以上の大音量が出るよう設計されており、補聴器を通すと”耳に刺さるような響き”になりやすいからです。
わたし自身も難聴の子を育てており、療育先の同級生ママからは、避難訓練のときに難聴の子どもが「非常ベルの音が怖くて泣いてしまう」「避難訓練が始まると固まってしまう」という声を聞いたことがありました。
この記事では、難聴児が非常ベルを苦手と感じやすい聴覚的な理由と、家庭・学校で今すぐできる避難訓練への準備方法をまとめています。この記事を読むと、「なぜわが子があの音に反応するのか」の理由が分かり、先生への伝え方や具体的な対策がすぐに実践できます。
難聴児は非常ベルの大音量が苦手
難聴児が非常ベルを「怖い」「つらい」と感じやすい理由は、気質や性格ではなく、音の聞こえ方そのものにあります。
非常ベルは補聴器との相性が悪い
この帯域は、補聴器が最も積極的に増幅する周波数帯と重なります。
補聴器は小さな音を大きく補うよう調整されていますが、非常ベルのような「突発的な高音+大音量」は仕組み上どうしても強く響きやすく、「キーンと刺さる」「頭に響く」「痛い」と感じる子が多くいます。
補聴器が悪いわけではなく、安全のためのベル音がそもそも強すぎる、というのが背景にある事実です。
泣く・固まるのは「防衛反応」であって気持ちの弱さではない
非常ベルに対して泣き出したり、耳を押さえてしゃがみ込んだりするのは、脳が「危険な音」と判断して身体を守ろうとする自然な反応です。
健聴の大人でも、突然の警報音には身体がビクッとします。難聴児はその刺激をより強く受け取るため、反応が大きく出やすいだけです。「がんばれない子」でも「わがままな子」でもありません。
非常ベルによって先生の声が届かなくなる
非常ベルが鳴っている環境では、先生の声・クラスメイトの声・放送の音がすべてベル音でかき消されます。補聴器は雑音の多い状況でことばを分離しにくい特性があるため、「声だけが聞こえない状態」になりやすく、指示が届かないまま取り残されるリスクがあります。
ろう学校の避難訓練から学べる3つのこと

聞こえの特性をもつ子どもたちが集まるろう学校では、避難訓練においても難聴児・ろう児が安全に行動できる工夫が設計されています。今回は、その中から「一般校でも取り入れやすい工夫」を3つ紹介します。
①視覚的な合図を優先する
ろう学校では、ベル音だけに頼らず見てわかる情報で避難を始めます。教員が大きく腕を振る、「避難」のカードを見せる、廊下の誘導灯を活用する、手話で「避難」を伝える、といった方法です。
②事前説明で「予測できる」状況をつくる
訓練前に「今日は大きな音が鳴るよ」「こうやって避難するよ」と伝えるだけで、子どもの不安は大きく減ります。写真・図解・先生の口頭説明とジェスチャーを組み合わせると、より効果的です。
③先生が子どものそばに付き添う
ろう学校では、子ども一人で動くことを前提にしません。教員が前後に配置され、手をつないだり背中を支えたりして誘導します。見える位置に味方がいることが安心感の土台になります。
今すぐできる避難訓練5つの準備
難聴児が避難訓練を怖がるのには理由があり、ほんの少しの準備で安心感は大きく変えられます。今すぐ実践できる、避難訓練に向けた準備方法を5つ紹介します。
① 視覚的な合図をセットにする
先生が「避難」のジェスチャーをする、赤いカードや矢印カードを見せる、廊下の誘導サインを用意するなど、ベル音と同時に「目で見てわかる合図」を加えます。
② 訓練前の一言で予測をつくる
「今日の何時頃に大きな音が鳴るよ」と事前に伝えるだけで、驚きとパニックが大幅に軽減されます。5分の説明が、子どもの安心を大きく変えます。
③ 補聴器の音量を一時的に調整する
避難訓練の時間帯だけ補聴器の音量を下げる、または片耳を外すという対応は、合理的配慮として学校に依頼できます。外している間は必ず先生が隣に付くことを条件にセットで相談しましょう。
④ 動きやすい位置に先生がいる
先生が近くで目で合図を送る、パニックが出やすい子は後方や端からスタートするなど、子どもが一人で動かないよう誘導する位置取りを事前に担任と共有します。
⑤ パニックが出たときの対応を事前に決めておく
固まったら無理に動かさない、落ち着いたら手をつないで移動する、後ろのクラスに合流するなど、担任と「その子専用のルール」を決めておくと、子どもも先生も安心して動けます。
非常ベルの音に慣れるための3ステップ

非常ベルの音が「どうしても苦手」という子には、段階的に音に慣れていく練習が有効な場合があります。大切なのは「子どものペースで進める」こと。強制は逆効果になります。
いきなり本番の大音量を聞かせるのではなく、まず「非常ベルはこういう音だよ」と事前に知らせるところから始めます。
- スマートフォンで録音した非常ベルの音を小音量で聞かせる
- 「この音が鳴ったら避難するんだよ」と意味と結びつけて説明する
- 「怖かったら止めていいよ」と子どもに主導権を渡す
「知らない怖い音」から「意味のある知っている音」に変わるだけで、反応が大きく変わります。
小音量から少しずつ音量を上げていく練習を、短時間・繰り返しで行います。
- 子どもが「大丈夫」と言ったら次の音量へ進む
- 1回の練習は1〜2分程度で切り上げる
- 「怖かった」「うるさかった」という感想を否定しない
補聴器のフィッティングを担当している言語聴覚士や補聴器専門店に「練習時の安全な音量の目安」を相談すると、より安心して進められます。
音に慣れてきたら、「音が鳴ったらこう動く」という行動とセットで練習します。
- 教室で小さな音を鳴らし、「立つ→ドアへ歩く」を繰り返す
- 本番の訓練が「初めての体験」ではなく「練習の延長」になると、パニックが起きにくくなる
- うまく動けたら必ず言葉でほめる
難聴児の非常ベル慣れに特化した確立されたプログラムがあるわけではないため、実際に取り組む際は補聴器のかかりつけ専門家やろう学校の先生、難聴学級の先生などに相談しながら進めてください。
学校・保育園での対応と我が家の実体験
小学校の避難訓練では「耳をふさいで待機」
わが家の長女とうこが通う小学校の難聴学級では、避難訓練の前に「何時何分にベルが鳴る」と事前に知らせてもらっています。補聴器をつけている子たちは、その時刻に合わせて耳をふさいで待機し、ベルが鳴り止んでから行動を始めるという方法をとっています。
慣れのための練習を重ねるより、まず「予測できる状況をつくること」が、現実的で確実な第一歩だと感じています。
避難訓練は大丈夫でも「想定外の音」に強く反応することがある

わが家の長女は、保育園の避難訓練では非常ベルを特別に怖がることはなく、補聴器をつけたまま落ち着いて参加していました。先生からも「いつも通り動けていましたよ」と聞いていました。
ところが1歳半の頃、公園で遊んでいたときのことです。ちょうど真上に自治体の防災無線があり、夕方5時のチャイムが鳴りだした瞬間、大泣きしてパニックになりました。防災無線の根元は、健聴の大人でも「えっ!?」となるほどの音量が出ます。
そのとき初めて、「わたしたちにとって何でもない音が、この子にはこれほどの刺激になっているんだ」と気づきました。この子を突然の大きな音から守っていかなければ、と強く思った瞬間でもありました。
「避難訓練は大丈夫」な子でも、「想定外の大音量には強く反応する」ケースは十分あります。音への反応には個人差が大きく、苦手な音の種類や平気な場面は子どもによって異なります。
- 避難訓練の非常ベルは平気でも、防災無線に強く反応する子がいる
- 補聴器あり・なしで反応がまったく変わる場合がある
- 「練習では大丈夫」でも、本番の音量・響き方が違うと反応が出ることがある
- 成長とともに反応が変わることも多い
まとめ|事前告知と目からの情報で安心な避難訓練にしよう!
難聴児が非常ベルを苦手と感じやすい理由は、高音域+大音量が補聴器を通して強く響き、刺さるような刺激として届きやすいからです。泣く・固まる・動けなくなるのは、脳が危険な音と判断したときの自然な防衛反応であり、気持ちの弱さとは無関係です。
また、「避難訓練は大丈夫でも、防災無線のような想定外の音に強く反応する」ケースもあるように、音への反応には個人差が大きいことも覚えておいてください。
「今日は何時に大きな音が鳴るよ」というひと言と、近くで合図してくれる大人の存在。小さな準備の積み重ねが、難聴児が安心して避難訓練に参加できる環境をつくります。
まずは担任の先生に、わが子の聞こえの特性と「こうしてもらえると助かる」を伝えることから始めてみてください。
