オノマトペは難聴児の言語発達に効果がある?具体例と研究からわかること

オノマトペを使うと、ことばが育ちやすいらしいって聞いたけれど、本当かしら…?
「オノマトペを使うと、子どものことばが育ちやすい」
そんな話を聞いたことはありませんか?
実はわたし自身も、長女が赤ちゃんのときに療育先でこう言われました。

オノマトペをたくさん使って、たくさん話しかけてあげてね!
「ワンワン」「ドーン」「ピカピカ」といったオノマトペは、子ども向けの絵本や声かけの中で、とても身近な存在です。健聴児を対象とした研究では、オノマトペが意味理解の手がかりになる可能性が示されていることもあります。
では、難聴児の場合はどうなのでしょうか。オノマトペは、難聴児の言語発達にも効果があると言えるのでしょうか。
この記事では、「オノマトペは効果がある/ない」と結論を急ぐのではなく、海外研究での報告、そして難聴児の言語発達を考えるうえで欠かせない視点をもとに、オノマトペの研究では何が調べられていて、その効果がどこまで分かっているのかを解説します。
「言われたからやらなきゃ」と焦るための記事ではありません。オノマトペをどう捉え、どう付き合えばいいのか。読み進めながら、一緒に考えていきましょう。
オノマトペの研究では何が調べられているの?
オノマトペに関する研究では、「オノマトペを使えば言語発達が進むか」という単純な効果検証が行われているわけではありません。多くの研究が注目しているのは、音と意味の結びつき(音象徴)が、子どもの理解をどのように支えているか、という点です。
オノマトペ研究の中心テーマ
研究で主に調べられているのは、音の響きが意味理解の手がかりになるか、動作や状態を表す語として理解を助ける働きがあるか、語彙が少ない段階でも状況理解に役立つかといった点です。
これらは、「ことばをたくさん覚えられるか」ではなく、意味をどう捉えているかに焦点を当てた研究です。
日本語におけるオノマトペの特徴
日本語はオノマトペが非常に多い言語として知られています。養育者が子どもに向けて話しかける際に、名詞や動詞よりも先にオノマトペを使う場面が多く見られます。
たとえば、「犬が寝転んでいるね」ではなく「ワンワン、ごろーんしてるね」といった形で、意味を細かく説明しなくても、状況が伝わりやすいという特徴があります。
日本語研究では、オノマトペが語彙習得そのものよりも、状況理解や注意喚起の補助として機能している可能性が指摘されています。これらは、語彙数そのものよりも、ことばの「理解の入り口」としての役割に注目した視点です。
研究で扱われている対象と限界
ここで注意しておきたいのは、日本語のオノマトペ研究の多くも、健聴児を対象としているという点です。難聴児を主対象とした研究は少なく、聴覚情報が十分に入る前提で議論されているものが多くあります。
そのため、日本語研究で示されている傾向は、「そのまま難聴児にも当てはまる結論」ではありません。
海外のオノマトペ研究
海外の研究では、日本語で言う「オノマトペ」という分類そのものより、音の響きと意味の結びつきに注目した研究が多く行われています。これらは一般に、sound symbolism(音象徴)と呼ばれています。
海外研究で調べられている主な視点
海外研究で主に扱われているのは、音の高低や強さが意味理解に影響するか、初めて聞く単語でも音の印象から意味を推測できるか、語彙学習の初期段階で音象徴が手がかりになるかといった問いです。
これらは、「その言語にオノマトペが多いかどうか」ではなく、人が音から意味を感じ取る仕組みに焦点を当てています。
代表的な研究報告の内容
たとえば、Imai & Kita(2014)の研究では、音の響きと意味の対応関係が、新しい語を覚える際の手がかりになる可能性が示されています。
つまり、音の響きに意味のヒントがあることで、赤ちゃんや幼児は、ことばと世界を結びつけやすくなると考えられています。ただし、これらの研究も多くは健聴児を対象とした実験研究です。
海外研究の限界と注意点
海外研究を読む際には、次の点に注意が必要です。対象言語が英語など、日本語とは構造が異なります。オノマトペが日常的に多用される言語環境ではなく、聴覚情報を十分に活用できる前提で設計されています。
そのため、海外研究で示されている結果を、日本語環境や難聴児の状況にそのまま当てはめることはできません。
難聴児の視点で考えると
海外研究が示しているのは、「音があれば理解できる」ということではありません。音は、意味理解を支える要素の一つにすぎないという点が重要です。
『How Deaf Children Learn』から読み解くオノマトペ
オノマトペの「効果」を考える前に、避けて通れないのが「難聴児は、どのようにことばを学ぶのか」という視点です。
Marschark & Hauser(2012)『How Deaf Children Learn』では、難聴児の言語発達について、聴覚情報だけで説明しようとすることの限界が指摘されています。
『How Deaf Children Learn』という書籍で示されていることについては、こちらの記事でも引用しています。


難聴児のことば・音楽・表現活動を通した経験が、理解や思考の広がりにつながることが示されており、難聴児の学びの可能性を考えるうえで示唆に富んだ内容です。
難聴児の言語発達は「聴覚入力」だけでは決まらない
この書籍で強調されているのは、難聴児の言語発達が、視覚情報(表情、動作、視線、口形など)、状況や文脈、経験の積み重ね、大人や周囲との相互作用といった複数の要因によって支えられているという点です。
つまり、「どれだけ音が入ったか」だけで、ことばの理解や発達を説明することはできません。
健聴児研究をそのまま難聴児に当てはめる危うさ
Marschark & Hauserは、健聴児を対象とした研究結果を、前提条件を確認せずに難聴児へ適用することの危険性についても述べています。
健聴児は、無意識のうちに多くの聴覚情報を得ています。研究では、その前提が明示されないことも多くあります。同じ方法でも、難聴児では異なる結果になる可能性があります。
この視点は、オノマトペに関する研究を読むときにも、非常に重要です。
オノマトペをどう位置づけるか
この書籍の立場に立つと、オノマトペは「効果がある/ない」を単独で評価する対象ではありません。視覚や状況と組み合わさることで意味を持ち、やりとりの中で理解を支える一要素になりうる存在です。
つまり、オノマトペそのものが特別なのではなく、どんな情報と一緒に、どんな文脈で使われているかが重要になります。
この視点から研究を読み直すと
これまで紹介してきた海外の研究を、Marschark & Hauser(2012)の視点から読み直すと、次のように整理できます。
難聴児とオノマトペ使用に関する研究
難聴児が実際にオノマトペをどのように使用しているかについても、いくつかの研究報告があります。
日本のオノマトペ研究から見える傾向
日本で行われた研究(小児のオノマトペ使用の発達変化と難聴児への評価視点の検討、佐藤綾華、大原重洋、2023)では、次のような内容で、健聴児と難聴児のオノマトペの使用が比較されました。
- 小学2~6年生の健聴児22名
- 小学2~6年生の難聴児4名
健聴児では、学年が上がるほどオノマトペの使い方が適切になり、文も長くなることが示された。
特に、オノマトペの適切さは年齢よりも語彙力との関係が強く、難聴児では聴児低学年より低い傾向がみられた。
この研究では、オノマトペの習得には語彙の差が影響していることが示されており、作文構成等の文中での高度なオノマトペの使用は、生活が上がることともに向上することが示唆されました。
また、難聴児は健聴児と比べると成績の低下がみられ、音のイメージを言葉に結びつけることに課題があることが示唆されています。
海外のオノマトペ研究から見える傾向
インドネシアで行われた研究(Onomatopoeia and Direct Speech on the Narratives
of Deaf and Hearing Students、Manar et al., 2021)では、難聴学生と聴者学生の文章表現が比較されました。
- 難聴の高校生8名
- 健聴の高校生12名
難聴学生の物語にはオノマトペや直接話法が一切使用されていなかったのに対し、聴者学生の物語では12編中7編にオノマトペが、4編に直接話法が含まれていました。
この研究では、こうした違いが生じた理由として、オノマトペが「音の経験」と強く結びついた表現であることが影響している可能性があると指摘しています。
ただし、この研究は参加者の数が20名と限られていること、またインドネシア語という特定の言語環境で行われたものであることから、この結果を日本語環境の難聴児にそのまま当てはめることはできません。
研究が示していること
これらの研究から読み取れるのは、難聴児と健聴児の間でオノマトペ使用に違いが見られる場合があるという点です。
自然に習得されるためには、視覚情報や体験と結びついた支援が必要な場合があることを示唆していると考えられます。
支援の中で使われ続けている理由
一方で、療育や教育の現場では、現在もオノマトペが多く用いられています。その理由として挙げられているのが、視覚や動作と組み合わせることで意味理解を支えられるという点です。
Marschark & Hauser (2012)の『How Deaf Children Learn』では、聴覚情報だけでなく、視覚情報・文脈・体験が理解を支える重要な手がかりになることが述べられています。この考え方は、オノマトペを動作、表情、体験と結びつけて使う療育実践とも一致しています。
研究結果からみる難聴児とオノマトペの関係
ここまで、海外研究、難聴児とオノマトペ使用に関する研究、そして難聴児の言語発達に関する視点を見てきました。そのうえで、現時点の研究から言えることと言えないことを、はっきり分けて整理します。
オノマトペ研究から言えること
また、難聴児は聴児と比べてオノマトペの使用に違いが見られる場合があることも示されています(佐藤・大原、2023、Manar et al., 2021)。特に、音のイメージを言葉に結びつけることに課題がある可能性が指摘されています。
これらは、「必ず効果がある」という意味ではありません。あくまで、理解を助ける可能性が示唆されている、という段階です。
オノマトペ研究からは言えないこと
現在の研究では、こうした点を断定できる根拠は示されていません。
なぜ「言えないこと」が大切なのか
「効果があるかどうか」をはっきりさせたい気持ちは、とても自然なものです。特に、療育や支援の場で何かを勧められた経験があると、「やらなきゃいけないのかな」と感じることもあると思います。
ですが、研究が「まだ言えない」としている部分を無理に断定してしまうと、保護者の不安や焦りにつながってしまうことがあります。
オノマトペをどう受け止めればいいか
オノマトペは、使わなければいけないものでも、使えば必ず成果が出るものでもありません。
まとめ|オノマトペは難聴児の言語意味理解を助ける
オノマトペは、育児や療育の場でよく耳にすることばです。実際に、日本語環境では自然に使われており、研究の中でも「意味理解を助ける可能性」が示されてきました。
一方で、現在の研究は主に健聴児を対象としたものが中心で、難聴児に対する効果を直接的に証明する段階には至っていません。そのため、「オノマトペを使えば言語発達が進む」と断定することはできません。
視覚的な情報や状況、経験と結びついたやりとりの中で、意味を共有するための一つの手段として、無理のない形で使っていく。それが、研究の知見とも矛盾しない受け止め方だと言えます。
「やったほうがいいのか」「足りていないのではないか」
そんな不安を感じたときこそ、研究が何を言っていて、何を言っていないのかを知ることが、安心につながります。
オノマトペは、魔法のことばでも、避けるべきものでもありません。その子の理解や反応を見ながら、数ある関わり方の選択肢の一つとして、必要な分だけ取り入れていけば大丈夫です。
