純音聴力検査とは?|オージオグラムの見方をわかりやすく解説
▲?〇?なんだこれ?
はじめて聴力検査の結果を見たとき、これが何を表しているのか全くわかりませんでした。
純音聴力検査は、子どもから大人まで幅広く行われる、最も基本的な聴力検査です。
どの高さの音が、どれくらいの大きさで聞こえているかを詳しく調べることで、難聴の種類や程度、聞こえの特徴を客観的に把握できます。
健康診断で行われるスクリーニング検査も、この純音聴力検査が基礎になっています。
一方で、結果として渡される 「オージオグラム(聴力図)」 は専門用語が多く、「どう読み取ればいいの?」「どこが聞こえにくいの?」と迷う方も少なくありません。
この記事では、純音聴力検査の基本と、オージオグラムの読み方を専門的に、でも初めての方にもわかりやすく解説します。
- 純音聴力検査は、学校や職場の健康診断で多くの人が受けたことのある、最も基本的な聴力検査
- オージオグラム(聴力図)は、数字よりも「線の形」から聞こえ方の特徴を読み取ることが大切
- 子どもの検査結果は日によって揺れやすく、1回の結果だけで判断する必要はない
純音聴力検査とは?
純音聴力検査(Pure Tone Audiometry)は、耳が「どの高さ(周波数)の音」を「どれくらいの大きさ(dB)」で聞き取れるかを調べる、最も基本的な聴力検査です。
実は、学校や職場の健康診断で、音が聞こえたらスイッチを押す“あの検査”が、この純音聴力検査の簡易版です。
多くの人が一度は経験したことのある、広く使われている検査です。
検査では、
- 低い音(125Hz〜)
- 会話に大切な中くらいの音(500〜2000Hz)
- 子音が多く含まれる高い音(4000〜8000Hz)
といった複数の高さの音をヘッドホンから流し、「聞こえたらボタンを押す」「手を挙げる」などの方法で反応します。
気導と骨導の2種類がある
純音聴力検査では、気導(きどう) と 骨導(こつどう) の2つを測定します。
1)気導(Air Conduction)
ヘッドホンから音を流し、外耳 → 中耳 → 内耳の“通常のルート”で音を伝えます。
学校や職場の健康診断で行われる、「聞こえたらスイッチを押すあの検査」は、この“気導”検査です。
多くの人が一度は経験したことのある方法です。
2)骨導(Bone Conduction)
耳の後ろに小さな振動器(骨導レシーバー)を当て、外耳・中耳を通らずに、内耳(蝸牛)へ直接振動を届ける方法です。
骨導は、耳鼻科や聴覚専門の医療機関で、難聴の原因を詳しく調べたい場合に行われます。
外耳や中耳をバイパスするため、内耳そのものの“生の聞こえ”だけを調べることができます。
骨導を測ると何がわかる?
気導と骨導の 差(ギャップ) を比べることで、どこに原因があるかをかなり正確に判断できます。
- 気導は悪いのに骨導は良い→ 外耳 or 中耳の問題(伝音性難聴)
- 気導も骨導も悪い→ 内耳の問題(感音性難聴)
- 気導と骨導の差が大きい→ 両方の性質がある(混合性難聴)
この“気導と骨導の比較”は、難聴の原因と種類を見分けるために非常に重要です。
子どもの場合はどう測る?
大人は「聞こえたらボタンを押す」方式で測定しますが、子どもの場合は、発達段階に合わせて少し方法が変わります。
- 未就学児: “聞こえたら積み木を入れる・おもちゃを動かす” などの遊戯聴力
- 0〜2歳ごろ: COR(条件づけ反応検査) が使われることも多い
このように、年齢に合わせて「反応しやすい形」に合わせることで、小さな子どもでも正確な聴力を測定できるよう工夫されています。
年長〜小学生になると、大人と同じ方法の純音聴力検査が可能になります。
COR検査については、こちらの記事で解説しています。
COR検査(条件詮索反応検査)とは?|赤ちゃんから幼児の聞こえをやさしく調べる方法
オージオグラム(聴力図)の基本の読み方
純音聴力検査の結果は、「オージオグラム(聴力図)」 というグラフにまとめられます。
このグラフを読むことで、耳のどの高さの音が聞こえにくいのかが一目でわかります。
横軸(周波数):音の“高さ”

上の図は、次女そらの聴力検査の結果(オージオグラム)です。
一緒に読み解いていきましょう!
まず、横軸は音の高さ(Hz)を表し、『左 → 右』へいくほど『低い音 → 高い音』になります。
- 125Hz・250Hz … 低い音(エンジン音・男性の声など)
- 500Hz・1000Hz … 会話で特に重要
- 2000Hz〜4000Hz … 子音(さ・た・か など)が多く含まれる
- 8000Hz … かなり高い音
高音が聞き取りづらいと、子音が抜けやすい・語尾が曖昧になる という特徴があります。
語尾の「す」が聞こえにくいとどうなる?|難聴児の発語に起きやすい変化を実例で解説
縦軸(dB HL):どれくらい大きくないと聞こえないか

続いて、縦軸を見ていきましょう!
縦軸は 音の大きさ(dB HL)を表します。
- 0〜24dB … 一般的な正常範囲
- 25〜39dB … 軽度難聴
- 40〜69dB … 中等度難聴
- 70〜89dB … 高度難聴
- 90dB以上 … 重度難聴
数字が大きいほど “大きくしないと聞こえない” という意味です。
● ○ と × の意味(右耳と左耳)
オージオグラムの記号には耳ごとのルールがあります。
- 右耳:○(丸)
- 左耳:×(バツ)
骨導の記号は [ ] や ▶ など
骨導測定の記号は施設によって異なりますが、よく使われるのは:
- 右耳骨導:〈 〉 や [ ]
- 左耳骨導:〈 〉(向きが逆)や [ ]
“○×とは違う記号で描かれている線”=骨導の結果 と覚えると読みやすいです。
グラフの線の読み方
線の“形”を見ると、聞こえ方の特徴のヒントがわかります。
- 全体が上の方(0〜20dB) → 正常
- 全体が下がる → 難聴(程度は深さで判断)
- 右耳の結果だけ下の方 → 右耳の難聴
- 右下がり(高音が低下) → 子音が聞きにくい傾向
- 平行に全体が下がる → 伝音性に多い
- 骨導が上で気導だけ下がる → 伝音性難聴
- 骨導も気導も下がる → 感音性難聴
- 気導と骨導に差が大きい → 混合性難聴
【実例】実際のオージオグラムを読み取ってみよう

上の図では、点の位置(聞こえる大きさ)や線の傾きから、
- どの周波数が聞き取りにくいのか
- 右耳・左耳の差
- 子音に影響しやすい高音の聞こえ
- 伝音・感音・混合のどれに近いか
といった特徴を読み取ることができます。
よくあるオージオグラムの形と原因の例
オージオグラムの“線の形”を見ると、難聴のタイプや、どんな音が苦手なのか が分かりやすくなります。
ここでは、医療現場でもよく見られる代表的なパターンを紹介します。
① 高音域が落ちるタイプ(右下がり)

特徴
- 2000〜4000Hzなど、高い音だけが聞こえにくい
- 線が右下に向かって落ちる形
原因の例
- 感音性難聴で最も多いタイプ
- 子どもでは、語尾の抜け・子音の聞き取りに影響が出やすい
- 遺伝性の難聴にもよく見られる
日常で起こりやすいこと
- 「た・か・さ・し」などが似て聞こえる
- 雑音があると聞き返しが増える
② 低音域が落ちるタイプ(左下がり)

特徴
- 125〜500Hzなど、低い音だけが聞こえにくい
- 線が左下に向かって落ちる形
原因の例
- 低音障害型感音難聴
- メニエール病の初期など
日常で起こりやすいこと
- 「もごもごした声」が聞き取りにくい
- 男性の声が抜けやすい
③ 平行に全体が下がるタイプ(水平型)

特徴
- 高音・低音どちらも同じ程度に低下
- “平行に下がった線” になる
原因の例
- 伝音性難聴(気導だけ下がり、骨導は正常)
- 中耳炎などで一時的に起こることも多い
日常で起こりやすいこと
- とにかく全体的に聞こえづらい
- 音量を上げると改善することが多い
④ 骨導と気導の差が大きいタイプ(混合性)

特徴
- 骨導の点は上(よく聞こえる)
- 気導の点は下(聞こえにくい)
- 2本の線が大きく離れる
原因の例
- 伝音性+感音性が両方混ざっている
- 中耳トラブル+内耳の感音性難聴が重なっている場合など
日常で起こりやすいこと
- 音量を上げてもまだ聞き取りにくい場面がある
- 周波数によって得意・苦手がばらつく
⑤ デコボコが大きいタイプ(周波数ごとの差が大きい)

特徴
- 周波数ごとの聞こえ方に大きな差がある
- 波のような形をしている
原因の例
- 子どもの検査で集中が続かない場合
- 内耳に部分的な障害がある場合
- 一時的な中耳の状態(鼻詰まりなど)
日常で起こりやすいこと
- 同じ「聞こえにくさ」でも日によって印象が変わる
- 得意な音と苦手な音がはっきりする
⑥ 左右差があるタイプ
特徴
- 右と左の線が大きく離れている
原因の例
- 片側の中耳炎
- 片側性難聴(片耳のみ感音性)
日常で起こりやすいこと
- 呼ばれても気づきにくい方向がある
- 集団の中で聞き取りづらさが強くなる
【実例】そらのオージオグラムはどのタイプ?

またまた、次女そらの聴力検査の結果です。
点の位置・線の形をみると、この日のそらはデコボコが大きいタイプであることがわかります。
- どの周波数が聞き取りにくいか⇒1000Hz以外はほぼ同じくらいの聞こえ
- 左右差があるかどうか⇒今回は左耳の結果なので、左右差はわからない
- 子音に影響しやすい高音域の聞こえ⇒落ちている(高音は聞こえづらい)
このように、聴力図からはその人の聞こえの状態などが視覚的に理解できます。
聴力図を実際に見ることで、「この形だと日常のどんな場面で聞き取りにくさが出るのか」がイメージしやすくなります。
子どもの難聴ではどんな見え方になる?
純音聴力検査は大人も子どもも基本は同じですが、子ども特有の傾向や、聴力図に出やすい特徴 がいくつかあります。
特に未就学〜小学校低学年では、集中力や理解度によって結果に揺れが出やすく、“数字そのもの” より、パターンを見ることが大切です。
① 日によって聴力図の形が揺れやすい
子どもは大人ほど安定して反応できないことが多く、同じ子でも検査日によって聴力図が少し違うことがあります。
- 集中が切れてボタンを押すのが遅くなる
- 雑音を聞き取ろうとする努力が続かない
- ゲーム形式でも気が散る
こうした要素が重なると、デコボコした形のオージオグラム になりやすいです。
医師も「1回の検査では判断しない」のはこのためです。
【実例】そらの聴力検査の結果を並べてみると…


この写真を見ると、波形が毎回違うことがわかります。
そらの場合も、同じ療育施設で測定していても
- 集中できた日
- 少し疲れていた日
- 雑音への反応が強かった日
などによって、聴力図の形が大きく揺れる時期がありました。
特に幼児期〜低学年は、「一定の範囲で揺れるのが普通」です。
複数回の結果を並べてみると、“今の聴力の傾向” と “揺れによる誤差” の両方をバランスよく理解できます。
② 高音が聞き取りにくいと“子音の聞こえ”に影響が出る
特に感音性難聴で多い高音域が下がるタイプ(右下がり) の場合、子どもは次のような影響が出やすいです。
- 「さ・た・か・し」などの子音があいまいに聞こえる
- 語尾が落ちるように聞こえる
- 聞こえているのに“意味として捉えられない”瞬間が出る
このため、語彙の定着・正確な言い分けの学習に差が出ることがあります。
これは聴力図で “どの周波数が落ちているか” を見ると理解しやすいです。
③ 中耳炎などの一時的な影響が出ることも多い
子どもは中耳炎になりやすく、滲出性中耳炎のように “水が溜まっている時だけ一時的に聞こえが悪くなる” ことがあります。
この場合は、
- 気導が下がる
- 骨導は正常
- 平行に全体が下がる(伝音性に近い形)
といった特徴が見られます。
日常での “聞き返しが増えた” というサインとセットで判断することが多いです。
子どもは中耳炎によって“その時だけ一時的に聞こえにくくなる”こともあります。
実際の気づき方については、こちらの記事で詳しくまとめています。
気をつけて!中耳炎|難聴児が“聞こえにくくなる理由”と早期発見のポイント
④ 子どもは“補聴器や支援の効果”が聴力図に反映されやすい
補聴器のフィッティングや、ロジャーの使用、語彙の増え方・環境整備などによって、聴こえの安定性や理解力が大きく変わる時期です。
純音聴力は内耳の機能そのものですが、
- 集中力
- 慣れ
- 音への注意の向け方
が育つことで、結果が安定してくる子も多いです。
そのため医療現場でも、幼少期は“変動を含めて読む” という考え方が一般的です。
⑤ 子どもの場合は「聴力図だけでは分からない部分」がある
純音聴力検査では「聞こえているかどうか」しか分かりません。
一方で、日常生活で大切なのは
- 聞こえた音を“ことばとして理解する力”
- 雑音の中での聞き取り
- 語彙・学習面の発達との関係
などです。
そのため、子どもの評価には
- COR
- 語音明瞭度検査(単語の聞き取り)
- 遊戯聴力検査
- 行動観察
といった複数の方法を組み合わせて総合的に判断します。
純音聴力検査は “聞こえの地図” としての役割 を持っていますが、それだけで子どもの聞こえをすべて説明できるわけではありません。
補聴器フィッティングとオージオグラムの関係
補聴器の調整では、純音聴力検査の結果(オージオグラム)がとても重要な役割を持っています。
どの高さの音が聞き取りにくいかをもとに、「どの音域をどれだけ補うべきか」 を決めるためです。
特に、高音が下がっているタイプ・左右差があるタイプ・伝音性/感音性など、聴力図の形によって補聴器の調整方法は大きく変わります。
補聴器専門店では、この聴力図を基準に
- 音量の微調整
- 周波数ごとの補い方
- 装用時の安定性のチェック を行い、その子に合った音を作っています。
補聴器専門店でのメンテナンス体験談については、こちらの記事で解説しています。
子どもの補聴器メンテナンス|専門店で実際に行われた内容をわかりやすく解説
まとめ
純音聴力検査は、耳のどの高さの音が聞き取りにくいかを数字とグラフでわかりやすく示してくれる検査 です。
オージオグラムを見ると、
- 高音が苦手なのか
- 低音が抜けやすいのか
- 片耳に差があるのか
- 日によって揺れやすいタイプなのか
といった、聞こえ方の特徴がつかめるようになります。
ただし、オージオグラムはあくまで「耳に届く音の強さ」を数字にしたものにすぎません。
日常生活で大切なのは、届いた音を“ことばとして理解する力”であり、それは経験・環境・支援によって大きく伸びていきます。
子どもの聴力検査は揺れがあって当然。
一度の結果だけで判断せず、複数回のデータと、日々の様子を合わせて考えることが大事です。
聴力図は、弱点を探すためのものではなく、子どもがより安心して過ごせる環境をつくるための地図。
検査で見えてきた特徴を知ることで、補聴器の調整や支援の方向性が見つかり、日常の“わかる場面”がどんどん増えていきます。
聴力検査の種類も増えてきたねー!
いつかまとめ記事も作るから楽しみにしててね!



